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第53話 薬を運ぶ車

last update Fecha de publicación: 2026-11-03 21:32:36

第53話 薬を運ぶ車

 八月十四日の午前七時十二分、神崎冬真が朝食を終えるより先に、玄関で春江が厚手の上着を着始めた。

「もう行くの?」

「佐々木さんのところ」

 春江は小さなバッグへスマートフォンと財布だけ入れると、食卓の端に置いてあった自分の薬には一度も手を触れなかった。

「病院へ電話するのは佐々木さん本人だよ。私は横にいるだけ」

「分かってる」

「冬真は?」

「今日は地方拠点。医薬品関係の物流設備で何か相談が来るかもしれない」

「薬を運ぶの?」

「俺が運ぶわけじゃない」

「じゃあ何するの」

「まだ知らない」

 春江が少し笑った。

「いいね、そのくらいで」

「何が」

「知らないことを知らないって言える」

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